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ノートルダム大聖堂 再建への道: Tallon氏のレーザースキャンから映し出されたもの

作成 christopher.dollard

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07/12/2019

月曜日、世界中のメディアが、パリで発生したノートルダム大聖堂の火事について報じました。ノートルダム大聖堂は、ゴシック建築の象徴的な作品であり、フランス国民の誇りとアイデンティティーの源であったことから、火災によってもたらされた損失の大きさは計り知れません。    

有名な鐘楼は焼失を免れ、多くの重要な芸術品や遺物が避難のために無事に運び出された一方で、激しい炎は大聖堂の屋根や尖塔を破壊したことから、今後の修復や再建のプロセスは困難かつ複雑なものとなりました。損傷の規模については、明らかに甚大な被害ですが、まだ明らかにされていません。  

悲劇に見舞われた大聖堂ですが、忠実な再現が求められる今後の修復に、希望の光となるものがあります。2010年、建築史家でVassar大学の教授であるAndrew Tallon (アンドリュー・タロン)氏が、Leica Geosystemsのレーザースキャナーを用いて、大聖堂の構造全体のデータを取得していたのです。    

残念ながら、Tallon氏は昨年この世を去りましたが、彼の遺した調査結果は、修復の専門家が大聖堂を再建する方法を決めるうえで大きな助けとなる重要なデータセットです。 

写真のオレンジ色の印は、スキャン位置を示します。 印をクリックすると、スキャナーが捉えた空間が表示されます。画面左の定規アイコンを選択して、大聖堂内で測りたい場所を測定することが出来ます。    

ノートルダム大聖堂の10億個の点群データ

Andrew Tallonこのような悲劇的な文化的損失によって、大聖堂のオリジナル・ワーク ー 特に、木製やガラスの特性を生かした構造部品 ー に代われるものはありません。しかしTallon氏は、レーザースキャニングによって、点群データに基づいた正確な3Dモデルを作成しました。大聖堂内のフライング・バットレス(飛梁)やリブ・ヴォールト、ステンドグラスの窓、精巧で複雑な木彫りまで、全てをレーザースキャニングによって捉えていました。ジャーナリストのAlexis C.Madrigal氏は、今後のプロセスについて、次のように解説します。 The Atlantic誌:    

「彼らは、Leica [Geosystems]と書かれた器械を三脚に取り付け、大聖堂内の空間全体にマーカーを置き、動かし始めました。5日間にわたり、彼らはスキャナーを何度も何度も - 全部で50回 - 配置して、世界で最も畏敬の念を集める建築物の一つを、空間全体の点の集合体として、比類なきリアルな姿で記録することが出来たのです。Tallon氏はまた、高解像度のパノラマ写真を撮影し、スキャンデータによって作成される3次元フォームにマッピングしました。」    

上記のキーワードは、reality: Tallon氏は、大聖堂をスキャンした時と同じようにキャプチャ作業を行いました。ノートルダム大聖堂のリアリティーキャプチャによって、内部および外部の力によって構造の経年変化を1ミリの精度でとらえることが可能になります。 また、レーザースキャナーで取得されたデータは、歴史時代から現代に至るどの図面よりも遥かに正確な測定値を有します。   

ノートルダム大聖堂のように、数百年の歴史を持つ建築物においては、その建築物のデッサンや記録資料というのは、ほぼ確実に不完全もしくは不正確なのが現状です。保存の専門家で建築史家のリンジー・ピーターソンは、[Madrigal]に対してこのように述べています。その点を鑑みれば、残っているものは他に何もないという意味で、レーザーによるデータは現地調査で得られた真実のデータと言えるでしょう。  

どんな修復作業を以てしても、何世紀も前に完成した手作りのオリジナル作品に置き換わることは出来ませんが、Tallon氏のスキャンデータは、今日の再建者たちの技が可能な限りオリジナルに近づくための助けとなるはずです。そして、Tallon氏の「リアリティの記録」によって、修復の専門家がノートルダムを安定させ、再建するための最善の作業方針を構築することに役立つはずです。  

ノートルダム大聖堂 再建への道: Tallon氏のレーザースキャンから映し出されたもの

修復作業を始める際は、被災する前の大聖堂の姿を正確に把握するだけでなく、大聖堂の構造がどのように経年変化しているかも理解する必要があります。 Tallon氏のスキャンは、大聖堂についてこれまで知られていなかった多くの情報を明らかにしたのです。Marie-Caroline Rondeau氏は、レーザースキャンによって得られた複雑なデータについて、次のように話しています。The Global Magazine of Leica Geosystems:   

「ゴシック様式の建築物は、ほとんどの建物と同様に、垂直様式で建設されました。垂直ではない建物の部分は、ヴォールト、アーチ、および風の力が合わせて加わったことにより、直線部分から突き出ていました。これは、力学が壁に作用していることの直接的な証拠です。3Dレーザースキャニングによって、これらの動きを数ミリ精度で定量化することにより、建物内で実際に何が起こったのか、そしてこれらの不要な変形に対処するために、大聖堂の建設中に建設者が行った方針について、自信を持って話すことが可能になりました。」    

実際、構造の経年変化について、記録に残っていない履歴を発見することは、Tallon氏の主たる目標の1つでした。作家のJoel Hruska氏は、この情報がいかに有効であるかを解説しています。[ExtremeTech]:  

「当時、彼の目標は、今日まで保存されていなかった建物の建設と改装のプロセスに関する手がかりを明らかにすることでした。2014~2015年にかけての調査でTallon氏は、「王の回廊」がほぼ傾いていること、大聖堂の中でもこの領域は、再調査が入るまで手つかずのまま長期間保存されていた可能性があることを突き止めました。彼はまた、大聖堂の内部の柱が完全な一直線に並んでいないことから、既存の構造を破壊せずに設計に組み込んだ可能性があることを明らかにしました。」    

レーザースキャン技術と歴史的建造物の保存

Scanning Notre Dame Cathedralこのような詳細な情報は、今後の修復作業、特に大聖堂の構造をどのように安定化させるかという問題に取り組むとき、非常に重要になるでしょう。また、大聖堂の損傷を捉えるために、今後数日から数週間でレーザースキャンが使用されると予想しています。これにより、Tallon氏のスキャンとの比較が出来るようになります。火災前後の大聖堂の3D点群モデルは、現代において最も複雑な再建プロジェクトの1つを任された専門家たちにとって、利用可能な最良のリソースとなるかもしれません。    

ノートルダム大聖堂の修復作業には、10~15年かかることが既に推定されていますが、レーザースキャンから得られた点群データが修復作業の専門家にとって心強い出発点となるはずです。Tallon氏の偉業は、そのレーザースキャニング技術の正確さと規模の大きさから、今日におけるノートルダムの最も正確かつ包括的な測定とモデル化を形作るといえるでしょう。